ProValve 60 にはいろいろと独特の回路構成が使われています。

まずパワー管に供給する電源回路を見ていきます。
mainpower

ダイオードブリッジを使った倍電圧整流回路のようです。
この構成の場合、C2, C3 に蓄えられた電荷は電源を OFF にしただけでは
放電しません。そのため先の記事の「感電に注意」で示した手順を
踏まないと感電します。私は電源 OFF 後、一晩置いた状態で何度か感電しました。
電圧を測ってみるとC2+C3 の間に DC400V ほど残っていました。
注意が必要です。

電源 B1, B2 はパワー管 6L6GC に供給される 470V 超の電圧です。
これ自体は普通なのですが、次の段 B3 では R5 と Zener Diode D5 で
47V  まで電圧を落としています。
この B3 はプリアンプ部の 12AX7A のプレート電圧で、先の記事でも
言及したように「わざわざ」下げています。

電源回路で特徴的な点をもうひとつ。

bias

パワー管 6L6GC のグリッドに加えるバイアス電圧を作る部分。
バイアス専用の巻線から作るのが一般的ですが、 C14 がトランスの
半導体電源の巻線に直接接続されており、巻線を兼用しています。
バイアス電圧は D14 1N5261 (47V) で安定化しており、電圧固定。
バイアス調整は出来ません。

Ch1 Tube Drive の回路を示します。
tubedrive


歪みは IC1 TL072 のフィードバックに取り付けられた D18 と D19 の
Zener Diode 1N4756 (6.8V) で作っています。
12AX7A は B3 (47V) の低電圧で駆動されており、グリッドには
0V を中心とした交流電圧が入力されています。信号のプラス側が
加わった時に大きな電流が流れるので歪みが大きくなります。
ただしダイオードクリップ回路で作るほどの顕著な歪みではなく
倍音を加えるフィルターのような働きをしていると考えられます。

もっとも特徴的なのがパワーアンプの位相反転段。
poweramp
 
結合トランスを使うことにより、極めてシンプルに位相反転を
構成しています。
極めて古典的かつ教科書的な回路構成で、真空管ギターアンプで
実際に使っている例を初めて見ました。
長真弓「真空管アンプ設計自由自在」の位相反転回路の最初に出てくる
回路形式(ただしバイアス電圧の加え方に違いあり)です。
最初見た時はあっけにとられました。
結合トランスを使うと磁気飽和による歪みが生じるおそれがあるので
敬遠されている構成なのかと推測していますが、OP アンプでドライブ
する数mA 程度の電流と少ない巻数のトランスであれば歪みは抑えられます。
古典的な回路ですが、プッシュプル出力のアンプを小型化できる
興味深い構成です。