長田(猫舌)のblog

主にギターアンプの解析、回路図の採取と公開を行っております。 回路図の公開は自身で読み取った回路図に限っており、主に国産のアンプを対象にしています。修理やメンテナンスなどにご利用ください。ただし公開している回路図は無保証です。内容の正確性には万全の注意を払っておりますが、誤記入や誤解の可能性は免れません。本サイトで公開している回路図によって生じた事故や損害については一切責任を負いかねますのでご了承願います。 また、電子回路とくに真空管に関する高電圧回路を取り扱っています。電子回路の知識や経験がない方が同様の作業をすると感電により生命に危険を及ぼすことがあります。同様な作業を行って生じた事故・傷害に対して当方は一切責任を負いません。

すでに回路図を見た方はお気づきのことと思いますが、この JC-120U の
回路は奇妙な点があります。

CH2 のプリアンプ部の回路図を示します。
JC-120_[b]_PreAmp_CH2

何が奇妙かといえば、使用している抵抗の仮数部が "68" に偏っている
ということ。つまり、680Ω、6.8kΩ、68kΩ、680kΩ が使われている
頻度がとても高いということです。
抵抗だけでなく、フィルムコンデンサも 0.068uF や 6800pF が頻繁に
使われています。

JK BOARD
JC-120_[b]_JK

また電解コンデンサもいろいろな役割で使われているにも
関わらず 4.7uF 63V が大半(JK Board で顕著)。パワーアンプ部なら
電源電圧も高いので63V のものを使うのは間違いではないのですが、
せいぜい 30V 程度の電圧回路に使うのは疑問があります。
この回路の設計者が "6" のつく部品にこだわっているのではないかと
思えるくらい。

実はこの傾向は JC-20 では特に顕著で、 JC-20 の回路を採取した
ときには驚いたと同時に何かの冗談かとも思ったものです。
なので JC-20 の回路ではこのことについて特にコメントしなかった
のですが、JC-120 にまで同様な回路構成が採用されているとなると
もはや冗談とも言ってられません。
もっとも JC-20 では何が何でも 68 を使うんだという意志が感じられる
部分(100kΩ 一本で済むところを 68kΩ 3本で代用してたり)も
あったものですが、JC-120U ではそのような強引な部分はなく、
15 や 33 などの値も散見されます。

もちろん、電子回路の定数については必ずしも絶対値が重要という
わけではありません。どちらかといえば複数の部品の比率が重要で
あることの方が多いです。たとえば電源電圧の 1/2 の電圧を作るので
あれば同じ値の抵抗を2つ用意して直列に接続し、一端を電源電圧、
もう一端を GND に接続します。2つの抵抗を接続した部分に 1/2 の
電圧が生じるわけですが、この場合に同じ値の抵抗として 10kΩ を
選ぶか、6.8kΩ を選ぶかの違いなだけ、とも言えます。
比率を計算する際に分母にあたる定数(抵抗値など)を 10 や 100 
などの切りのよい数を使うとわかりやすいので使われがちですが、
比率さえ合っていれば6.8 や 68 を使ってもよいわけです。
厳密にはある程度の違い(流れる電流の大きさなど)が生じるのは
確かなのですが、こと音量や音質の面においては(比率を同じにして)
抵抗値を変えても「ほとんど変わらない」という印象になるはずです。

今回の JC-120U は回路図を採取するためのみにオーナー氏から
お借りしているので本BLOG に掲載している大部分のアンプと違って
メンテナンス作業を行いません。
なので今回は電解コンデンサの交換しなくてよいのですが、
比較的入手が難しく割高な 63V のものを大量に交換しなければ
ならないとなると躊躇してしまいます。

なぜこのような定数の部品を使うのか、必要性がわかりません。
68 のつく抵抗やコンデンサが大変安価に大量に入荷できたから、
などという単純な理由ではなさそうです。

シャーシの中を見てみます。

DSC07076K

リバーブユニットがシャーシ内部に金属スペーサーで固定されているのが
目を引きます。
7つの基板で構成されており、相互にコネクタで接続されています。以前の
ようなラグに半田づけでの配線ではなく、修理やメンテナンスの際に
断線することがなくなります。ただコネクタの配置と接続元・接続先は
作業前に記録を取っておくべきです。

DSC07080B

電源部の SWITCH BOARD。
ヒューズと電源スイッチが搭載されており、電源トランスの一次側の
配線を担っています。電源トランスの二次側にはダイオードブリッジの
DI BOARD があり、ダイオードブリッジ S10VB2046 が放熱を兼ねて
シャーシ底部にネジ留めされています。(写真がありませんが。)

DSC07088N

DI BOARD で整流された電源は MAIN AMP BOARD で定電圧に平滑化されます。
パワーアンプ部で必要な V+, V- の電源、プリアンプ、エフェクトループで使われる
電源、コーラス・リバーブで使われる電源の3種類の電源を供給します。

CH1 BOARD
DSC07109C
DSC07110D

CH1 のプリアンプ部です。
トランジスタ3石、2段のシンプルなプリアンプです。
初段は 2SK184、二段目は 2SK184 による電圧増幅と 2SC1815 による
エミッタフォロワの組み合わせ。このモデルでは JFET 2SK184 での
増幅がメインで、部分的にバイポーラトランジスタが関わるという
ディスクリート回路の構成が全般に見られます。
CH1 で増幅されトーンコントロールを通った信号は MAIN AMP BOARD の
ミキサー部に送られます。

CH2 BOARD
DSC07104E
DSC07103F

CH1 と同様なプリアンプ回路に DISTORTION 段が加わります。
歪みの作り方は 2SK184 のフィードバックにダイオードクリッパーを
加えたオーバードライブ的な回路になっています。

CH2 からの信号は次に SEND-RETURN のエフェクトループでの加工を
加えるため JK BOARD に送られます。

JK BOARD
DSC07112G
DSC07117H

SEND-RETURN の機能が強化され、独立した基板でシャーシ背面に
設置されています。
RETURN ジャックから入力された信号をそのまま使うモード(Serial)と
CH2 からの原信号と加算するモード(Parallel)の2つをスイッチで
選択できます。

JK BOARD で加工された信号はリバーブと コーラス・ビブラートを加える
EFF BOARD に送られます。

EFF BOARD
DSC07119J
DSC07120K

JC といえば、の CHORUS / VIBRATO 回路です。
BBD は 1024 段の MN3007 を使用。クロックドライバ MN3101 との
組み合わせです。

リバーブユニット
DSC07098P

Accutronics 8AB2D1A が使われています。

ミキサー回路+パワーアンプ MAIN AMP BOARD
DSC07087M

パワーアンプは R と L の2組があります。MIXER 回路が前段にあり、
CH1 からの信号と EFF BOARD からの信号を2組のアンプに振り分ける
役割を担っています。

さて、JC-120 シリーズの第2回。2000年以降のモデルだと思いますが、
定かではありません。
今回は知人の承諾を得てライブハウスで使用していた現役の個体をお借りして
回路図の採取を行いました。
オーナー氏、ライブハウス関係者にはこの場を借りて感謝いたします。

DSC07046A

JC-120 の大まかな製造時期の判定によく知られているのが電源スイッチ。
75年の発売開始から90年代中盤までの間は通称「ピンスイッチ」、
グランド反転を兼ねた ON-OFF-ON のトグルスイッチが使われています。
それ以降は本機のような黒い角形のプッシュロックスイッチになっています。
比較的新しい個体のようですが、オーナー氏によると取得して20年以上に
なるとのこと。

最も特徴的なのは背面に貼られている銘板。
DSC07061B

モデル名が "JC-120U" 。 ASSEMBLED IN THE U.S.A. と明記されています。
アメリカ製の JC-120 です。ただ Made In The U.S.A. ではないのは
各国から部品を集約してアメリカで組み立てているためのようです。

前面コントロールを見てみます。
DSC07051C

CHANNEL-1 のコントロール。
左から入力ジャック x 2 (HIGHT, LOW)、プッシュロック式の BRIGHT スイッチ、
VOLUME, TREBLE, MIDDLE, BASS の各コントロール。
電源スイッチの変更と同じ時期にスライドスイッチ(レバーを下にして ON だった)
がプッシュロック式に変更されています。
ボリューム、トーンコントロールは外観上は変更がありません。
ただノブに関してはポットの軸形状がローレットから D 軸に変更されているので
以前のノブは装着できません。

また入力ジャックとジャック取り付けナットがプラスティック製に代わっています。
シャーシの金属部分とジャックの GND を接触させないことによって
グランドループを作らないノイズ対策。以前のモデルも同様な対策をしていましたが
プラスティックの絶縁ワッシャを挟んで取り付けるため製造の手間がかかっていたと
推測されます。
ただ問題なのはこのプラスティック製のジャックとナットがよく破損すること。
ナットを強く締め付けるとナットが割れてしまったり、ジャックの口ごと折れて
しまったりします。ギターアンプのなかでも「頑丈」と言われる JC-120 ですが、
入力ジャックが壊れて使われなくなった個体をみることもあります。
この時代の JC-120 のアキレス腱となっている部位です。

DSC07053D

CHANNEL-2 のコントロール。
同様に入力ジャック x 2 (HIGH, LOW)、VOLUME, TREBLE, MIDDLE, BASS
と続き、スイッチ付きの DISTORTION、REVERB が続きます。

DSC07056E

CHORUS, VIBRATO のコントロール。
VIBRATO の SPEED、DEPTH のコントロールと VIBRATO / CHORUS
切替スイッチ。続いて電源ランプと電源スイッチ。

以前のモデルでは VIBRATO / CHORUS 切替スイッチはレバー式でしたが
ノブによるロータリースイッチに変更されています。

DSC07057F

アメリカでの製造に伴いメーカーによるスピーカーの変更が行われ、
JC-120 の特徴であるスピーカーグリルから覗く2つの銀色のセンターキャップが
この個体では見られません。

DSC07060G
背面。

DSC07065H

以前のモデルに比べて SEND-RETURN 関係のジャックとその機能が充実して
います。
左から LINE OUTジャック  x 2 (R, L(MONO) )、RETURN x 2 (R, L(MONO))、
RETURN の LEVEL 切替スイッチ、 SEND ジャック、 LOOP (Parallel, Serial )
スイッチ、フットスイッチ x 3 (CHORUS/VIBRATO, REVERB, DISTORTION)。
以前あったスピーカー接続ジャック(SP, EXT SP) はなくなっています。

DSC07066J

スピーカーはエミネンス製。
この個体のものは写真でも見られるようにスピーカー端子板の取り付け
リベットが両方のスピーカーで折れていました。
この状態ではスピーカーケーブルを強く引っ張ったりすると簡単に
スピーカーを破損してしまうので、即刻修理しました。
「そういえばおんなじ修理を Fender の TWIN AMP でやったなぁ」と
思い出しながら作業。で、気づいたわけです。「あ、これエミネンスだ。」
そうか。アメリカで組み立てるようになったのでスピーカーも
アメリカのものに替えたんだね。

DSC07071

スピーカーの穴に詰まっていたリベットの残骸を取り外し、
M3 x 10 mm の ネジとナットで端子板を取り付けて固定。
スピーカーケーブルの端子の脱着にもしっかりと固定されています。

製造年代がはっきりしませんが、Assembled in the U.S.A. の
JC-120U の回路図を採取したので公開いたします。

DSC07048A

回路図
  
  20240322  初出
  20240322-1 プリアンプ CH2: Distortion SW 抜け修正

    PNG:

      電源  Power Supply



      JK ボード  JK Board

      エフェクト  Effects

      ミキサー  Mixer



    PDF:


schematics    JC-120_[b].pdf

キャビネットからシャーシを取り出します。

DSC06996F

DSC06998D

ラグ板を使った空中配線。
アキシャルリードの電解コンデンサが3つ。80uF 150WV x 2 と 20uF 350V。
あと巻線抵抗(円筒形)がそれぞれリードで自重を支えています。
この時代の電子部品はこのような配線を行うのが当たり前だったためか、
リード線が現在のものより太くて長いです。なので現在の細くて短い
リード線の部品で代替しようとするとリードが足りなかったり、位置が
安定しないなどの問題が生じます。特に電解コンデンサはアキシャルリードの
入手が限定的なのでオーバーホールにはいつも頭を悩ませます。

シャーシ内部。
DSC06999A

真空管ソケットにオイルコンデンサや巻線抵抗が接続されています。
オーバーホールでは巻線抵抗は劣化が少ないので交換しませんが、
オイルコンデンサはすべてフィルムコンデンサに交換します。

DSC07000B

電源トランス。二次側の 110V のタップを使って倍電圧整流をしています。

DSC06997C

出力トランス。
左側の2つのタップが一次側(7kΩ)、右側が二次側(8Ω)。
このアンプは NFB をかけていないので、一次側と二次側が
完全に絶縁されています。
出力トランスの大きさから判断すると出力 3~4W といったところか。

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